「中国人の日本語作文コンクール」応募妨害事件
「中国人の日本語作文コンクール」というイベントが毎年あります。
日本の中国系出版社が主催しているコンクールで、今年で12回目になります。
昨年は中国全土約200の大学から5000人近くが応募しました。
昨年、三等賞以上の入賞者は71人いたのですが、教え子2人が見事入賞してくれました。
うちの大学からは17人ほど応募したのですが、その内2人が入賞というのはなかなかの結果だと思います。
教え子が入賞したことで、私も「優秀指導教師賞」なる賞をいただきました。
入賞という結果は、勿論学生自身のポテンシャルによるものですが、教師としてはたとえわずかな助力であったとしても、こうやって「形」に残る結果というのはやはり嬉しいものです。
自分の教師としての力量がどの程度のものか、客観的評価にあまりさらされることのない場所で仕事をしてるわけですから。
学生にとっても、私にとっても、もちろん大学にとっても?、好ましい結果に終わったはずの作文コンクール応募ですが、実は、応募に際して理解に苦しむ出来事がありました。
この作文コンクール、作文50本以上応募した大学には特別賞として五万円相当の日本語書籍が送られることになっています。
図書館で日本語書籍の貧弱ぶりを目にしていたので、少しでも学生が日本語に触れられればと思い、3年生ほぼ全員(約60人)に応募させようと考えました。
作文の出来不出来に関わらず50人以上応募すれば五万円相当の書籍がもらえるのですから、学生に協力してもらわない手はありません。
指定字数は1500~1600字。
作文が苦手な学生も少なくない中で、なんとかモチベーションを高めてほとんどの学生をコンクールに参加させようとしていた矢先でした。
日本語科主任から「参加するな」との頭ごなしの指示。
作文テーマの一つが「中国の若者は日本のここが理解できない」だったことから、主任が勝手に「政治的テーマの作文コンクール」だと思い込み、過剰反応して一方的に参加禁止を命令してきたのです。
確かに日中関係は政治的に微妙ですが、この作文コンクールはまさにそのような政治的対立を乗り越えて、民間交流を促進していこうという趣旨で開催されているものです。
私自身、日中近現代史は日本人の平均よりかなり詳しく知っているし、この主任が心配しているようなことは百も承知しています。
主任にこのコンクールの趣旨を説明しようと試みたのですが、思い込みが激しいタイプのようで話になりません。
(のちに他の先生から、主任がこの作文コンクールを「右翼の作文コンクール」だと説明していたことが判明し、驚き呆れる)
このコンクールのことなど何も知らないくせに、もし問題がおきたら自分の地位が脅かされるかもしれないという思い込みからくる役人的事なかれ主義で、人の授業を妨害しようとする。
発想が「教育者」じゃなくて「役人」。
教師への信頼もなく、自分の思い込みで授業を妨害し、面子を潰してきたということで(中国人にとって面子は物凄く大切なはずです)、最初は抗議文(謝罪要求)提出を考えました。
謝罪要求が受け入れられないようならすぐに辞表を提出しようかと思いましたが、学期途中で辞めてもすぐ次が見つからないだろうし、この大学は給料もそれなりにいいし、何より学生には罪はないのに迷惑をかけることになってしまうのも忍びないので、抗議は飲み込みました。
他の大学だったら、教育熱心な先生として評価されるような話だと思います。
とにかく、中国全土から200校位の大学が参加してるコンクールでうちの大学だけが参加できない合理的理由が全くありません。
せっかく学生がやる気になってる時に下らない理由で横槍入れられて頭に来たけど、苦肉の策として、団体参加ではなく学生の個人参加にしました。
(学生が個人で勝手に応募するのは自由なはず)
大学側には内緒です。
個人応募になったことで参加者は17人に激減し、当初の50人以上参加、五万円相当の書籍ゲットの目論見が崩れました。
まあ、仕方がないです。
うちの学生2人の入賞が発表された時も、学生や親しい先生以外には話していません。
大学にばれる可能性もあるけどバレたらバレたでそれはそれ。
本来なら自校の学生が賞を取ったのだから、大学にとっても栄誉なはずなんですがね。
主任が自分の間違いを認められるタイプかどうかわかりませんし、そこを認めさせるのに労力を使いたくありません。
賞を取った学生がますます自信をもって(賞を取れなかった学生も奮起して)、日本語学習に励んでくれればそれが一番いいわけですから。
自分の教師としての実績を形に残したい、という欲望ももちろんあります。
教師の仕事は、学生のやる気を引き出す環境を作ることでしょう。
役人的事なかれ主義で雇われてる期間を大過なく過ごせればいいなんて教育者じゃないですよね。
学校の主役は教師や事務ではなく、学生ですから。